代表の想い
生きがいラボ株式会社 代表取締役の福留幸輔と申します。生きがいラボは、人事制度の「あり方」に違和感を持った私が、人事制度の常識に一石を投じようと2010年4月1日に設立した会社です。生きがいラボでは、一般的な人事制度とはまったく違う人間観・組織観に基づいて、社員さんがご自分の給与を自己申告する給与制度に取り組んでいます。
この取り組みは、単に奇をてらって変わったことをしようというような動機で始めたわけではなく、そこには私の強い思いがあります。ここでは、自己申告型給与制度を始めた私の思いをお伝えしたいと思います。

他者との比較からは本当の幸せは生まれない
この取り組みの根っこにあるのは「他者との比較からは本当の幸せは生まれない」という哲学です。私にはずっと「自分には価値がない」という思い込みがありましたが、それも他者との比較によって強化されてきました(原体験は他者との比較ではないのですが話が長くなるので割愛します)。自分より優れた他者の特徴を見て、劣等感を感じてきたわけです。それとは反対に、自分が少しでも優れているような部分があると優越感を感じるわけですが、それも本当の幸せとは到底呼べるものではありません。
こういう自分の体験を通して、本当の幸せ(生きがい)を得ようとすれば、他者との比較によって自分の幸福度を測るという思考様式から解放される必要があると思ってきました。
人事制度の限界と初期の試み
私の専門領域である人事制度の世界で、他者との比較が生まれやすいのが「給与額」です。仮に、ご自分の給与額に不満を持っている人がいるとします。その不満を解消しようと、人事制度の世界では悪戦苦闘しているわけです。人事評価の項目や方法を変えたり、人事評価者のトレーニングをしたり、いろいろ取り組んでいるわけですが、その人の思考様式が他者との比較によって自分の幸福度を測るというものである限り、何をやっても無意味だと私は思っています。
2010年に生きがいラボを立ち上げた当初は、給与の決め方をいくら工夫しても意味がないという考えから、社員さんが給与のことを考えなくてもよい制度を目指していました。もう少し具体的にいうと、役割に応じて外部労働市場の相場以上の給与額になるように、毎年自動昇給する仕組みにしていました。その代わりに、キャリア開発を会社として厚く支援することで、「給与のことは気にせずに自分を成長させることに集中してほしい」というメッセージを送ったわけです。この取り組みは、ある程度は理にかなった方法だと思っていましたし、それなりに効果もあったと思います。
でも私のなかでは、これでは根本的な解決には至らない感覚が出てきました。「お金」というものがこの世に存在する限り、この方法は、臭いものに蓋をして問題を先送りにしているだけだと感じてきたのです。つまり、この方法では「自分の幸せを他者との比較によって測る」という思考様式には変化が起きないと感じたわけです。
自己申告型給与制度を始めた理由
だったら、「給与額」というテーマを、会社と社員さんの話し合いのテーブルのど真ん中に「ドン!」と置くしかないと考えました。しかし、これは経営者さんにとっても、社員さんにとっても、そして私にとってもかなり勇気が求められることでした。お金の話は感情が動きやすいので、できれば避けたいものです。でも、うまくいくか分からないけど「やるしかない」と思って、給与をご本人に自己申告してもらうという取り組みを始めました。
取り組み始めてから10年以上経って、確信できるようになったことがあります。それは「給与額はその人の人間としての価値とは何の関係もない」ということです。はっきり言って給与なんてものは、その人の活動の中の経済的価値に置き換えられる一部分だけ取り出して恣意的に決められるものですので、その額になんの意味もありません。意味もないし、ましてや正解もありません。給与額には正解があるようなことを強調する広告も見受けられますが、そんなものは幻想です。
正解がないから、当事者本人が話し合いのテーブルに座って、対話を通してとことん探求していくことが必要なのです。ご自分の給与額を決める対話を通して、「自分の人生にとってお金とはどんな意味があるのか?」を探求し、自分の仕事への情熱やスキル、仕事とプライベートとの比重、自分らしいライフスタイルなどを模索していくことで、他者と比べる必要のない人生を歩んでもらいたいという思いがあります。それが本当の幸せ、生きがいにつながるという思いが、今の取り組みにつながっています。
構造から変えることで起きる変化
もう1つ、この取り組みをすることで確信したことがあります。それは「給与への不満は人に問題があるのではなく、給与を決める構造に問題がある」ということです。
どの会社さんでも、給与について「陰」で不満を言う社員さんがいます。その原因として挙げられるものとしては、「不満をいう社員さんに問題がある」「部下を納得させられない上司に問題がある」「人事評価の基準に問題がある」などが一般的には挙げられることが多いと思います。これらを原因だと捉えると、社員さんの意識を変えようとしたり、上司の評価スキルを高めるために評価者研修を実施したり、人事評価の基準をより細かくしたりすることが、問題解決の施策になります。
しかし、私はもっと根本的に「社員さんが給与決定プロセスに参画できない構造」が原因だと思ってきました。人事評価の時に自己評価を行う人事制度もありますが、結局はご本人の知らないところで給与額が決まっている構造には変わりはありません。自分にとって大切なことが、自分の知らないところで決められ、それについて意見を言う場もなければ、不満を持つのは仕方のないことです。給与額というご本人にとって大切なことが、ご本人の知らないところで決められることがないような構造にしようと思うと、やはり「自己申告」してもらうことが必要だと考えました。
さらにもう1つ、この取り組みが「経営者さんの生きがいにもつながる」という確信も持っています。「経営者は孤独だ」ということはよく聞かれることですが、それは経営者さんに情報と権力が集中する「組織の構造」が原因だと考えています。経営者さんから「社員は経営者の苦悩を分かってくれない」「社員が経営者目線になってくれない」という声はよく聞かれると思いますが、それは経営者さんの「器」や「経営スキル」などが原因でもなく、また社員さんの「意識レベル」の問題でもなく、情報と権力が一部の人に集中する「組織の構造」が原因だと考えています。
情報や権力が組織階層の上部に集中する組織構造を手放すことで、段々と社員さんと経営者さんの目線が合っていきます。そして、会社を「みんなで経営している」という感覚を味わうことができます。その実感は、経営者さんの生きがいにつながると感じています。そして、そのような組織構造を人事分野で実装していくと、給与額を社員さん本人が申告して、ご本人との対話によって給与額を決めていくという構造になります。このような思いがあって、給与をご本人が自己申告する制度に取り組み始めました。
最後に ― 給与を手放すことは、信頼を手にすること
ただこの取り組みは、すべての経営者さんの生きがいにつながるわけではないとも思っています。会社を自分の思うようにコントロールしたいという経営者さんもいらっしゃると思います。そういう経営者さんは、給与を決めるという力を手放さない方がいいと思いますが、社員さんとお互いを尊重しあうパートナーになることは諦める必要もあると思います。逆に、社員さんとパートナーになっていきたい経営者さんは、「給与を決める」という権力を手放すことで、社員さんとの新たな関係性を築いていくことができると思います。それは、とても勇気がいることだと思いますが、その旅路のお手伝いができればとても嬉しいです。
生きがいラボ株式会社
代表取締役
代表者プロフィール
- 1973
- 大阪府に生まれる
- 1996
- 同志社大学文学部英文学科を卒業後、中小企業専門の研修コンサルティング会社に入社。
営業部門に配属され約10年間にわたり法人営業を担当 - 2000
- 経営コンサルタントになることを決意。同年12月 社会保険労務士試験に合格
- 2002
- 社会保険労務士に登録
- 2006
- 経営企画部署へ異動。販促計画の立案、WEBマーケティング、教材の制作、秘書業務を担当
- 2009
- 組織・人事コンサルタントとして独立・起業を決意
- 2010
- 14年間勤めた会社を退職し、生きがいラボ株式会社を設立し代表取締役に就任
社員さんが給与額を自己申告する自己申告型給与制度を提唱し、ティール組織に代表される自律分散型での組織運営に向けた人事制度の設計・運用のサポートを行っている。