こんにちは。生きがいラボの福留です。
2026年の春闘では、3年連続で5%を超える賃上げが実現しました。あわせて経済産業省は2026年3月、人的資本の情報開示に関する指針の改訂版を公表し、これからの人材需給に大きなミスマッチが生じる見通しも示しています。
今回は、こうした人事制度に関わる環境変化について、自己申告型給与制度の視点から見つめ直してみたいと思います。
この記事では、①人事制度改革がいま広がっている背景、②人材需給のミスマッチが投げかける問い、③自己申告型給与制度がその流れにどう応えるのか、④資金的な制約の大きい中小企業さんが取り入れるときに大切にしたいこと、の4点についてお伝えします。
目次
賃上げへの対応から人事制度そのものの見直しへ広がっている
2026年の春闘での高水準な賃上げに続き、2026年の人事院勧告でも引き続き給与引き上げが示されました。給与の水準そのものが底上げされる流れは、働く人からするとうれしい変化ではないでしょうか。
ただ、基本給や一時金を底上げするだけでは、社員さん一人ひとりの納得や意欲にまでは届きにくいと、10年以上この仕事に取り組むなかで感じてきました。会社が決めた施策は、すぐに当たり前になってしまうからです。給与の額そのものより、その額がどう決まったのかという納得の過程のほうが、働く意欲に大きく影響すると考えています。
だからこそいま、賃上げという「量」の議論から、給与をどう決めるかという「プロセス」の議論へと視点を移す必要があると感じています。一度きりの引き上げであれば基準を見直すだけで済みますが、何年も引き上げが続くとなると、誰にどれだけ配分するかを毎年会社側だけで決め続けるのは、経営者さんにとっても負担の大きい作業になっていくだろうと感じています。
経済産業省が公表した人的資本可視化指針の改訂版も、業績や賃金水準だけでなく、人材への向き合い方そのものを問う内容になっています(現在は主に上場企業さんが対象ですが)。この流れは、大企業さんに限らず、いずれ規模を問わず広がっていくのではないかと感じています。
人材需給のミスマッチが問いかける、これまでの評価のかたちの限界
経済産業省の2040年の就業構造推計によると、事務職で437万人が余剰となる一方、専門職では181万人、現場を支える人材では260万人が不足すると見込まれています。
つまり、労働市場のなかで、引っ張りだこの人材もいれば、なかなか職を見つけられない人材もいるという需給のミスマッチが起きている状況です。現在もミスマッチが存在していますが、それがさらに拡大するということです。
一つの会社内でいうと、業務量が常にひっ迫している社員さんがいる一方で、常にヒマな(力を発揮しようとしても機会がない)社員さんが同時に存在することになります。
もし2040年に経産省が予測した通りの状況になるとすれば、これは社員さん一人ひとりのスキルや意識の低下が招いた問題ではなく、受け身の姿勢を助長する画一的な人事評価のものさしによって増幅された問題だと考えています。
点数やランクで人を測る仕組み(人事評価制度)は、一見すると分かりやすくて、公平に見えるのですが、変化の速い状況にしなやかに対応しづらい面があります。決められた等級や職務の枠のなかでしか、貢献の仕方を語れないですし、処遇(給与や賞与)と連動しているので、そう頻繁には変えることが難しいためです。
組織を、あらかじめ決められた歯車の集まりのような機械として捉えるのか、それとも一人ひとりが呼応しながら形を変えていく生命体として捉えるのかによって、人事制度のあり方も大きく変わってくると感じています。
人材需給がこれだけ大きく動く時代には、一人ひとりが自分の可能性に向き合い、本人の言葉で語る機会が必要になってくると考えています。

給与を自己申告する人事制度は、可能性を発揮できる場をつくる試み
自己申告型給与制度における申告は、次の3点を柱にしています。
①どんな貢献をするか
②それがどれくらいの給与に見合うか
③どんな働き方をしたいか
社員さんご自身がこの3点を申告するところから、給与決定のプロセスが始まります。会社が一方的に評価を下すのではなく、社員さんと会社が対話を重ね、数字にしづらいことも一緒にテーブルにあげながら、①自己申告、②未来志向、③総合判断という3つの要素で、給与を未来投資として決めていきます。
たとえば、担当している職務では力を発揮しきれていないと感じている社員さんがいたとします。その社員さんが、対話の場でこれから挑戦したい役割やご自身の強みを言葉にすることで、これまで見えていなかった貢献の仕方が、会社側にも見えてくることがあるでしょうし、ご本人にとっても自分の可能性を見つめ直すきっかけになるかもしれません。
申告の内容は、半期に一度、対話を通じて確かめ合います。人材需給がミスマッチを起こしやすい今だからこそ、こうした短い周期での対話が、一人ひとりの可能性を組織の方向性と結びなおす機会になると考えています。
給与は過去の成果へのジャッジではなく、未来への期待をこめた投資だという前提に立つと、人事制度改革は「基準をどう変えるか」ではなく「対話の質をどう高めるか」という問いに変わっていきます。
社員さんと経営者さん、双方にとっての意味を考える
社員さんにとっては、自分の貢献や働き方を自分の言葉で語れることが、会社から評価される立場から一歩踏み出す機会になると感じています。給与の額だけでなく、決まり方に納得できるかどうかが、日々の働きがいに直結するためです。
経営者さんにとっては、これまで見えていなかった社員さんの可能性や意欲に、対話を通じて気づく機会になります。人材需給がミスマッチを起こしやすい時代には、社内にすでに存在する社員さんの可能性をどう引き出すかが、採用と同じくらい大切な経営課題になってくると考えています。
資金的な制約の大きい中小企業さんが、人事制度改革に取り組むときに大切にしたいこと
人的資本の情報開示は、現在は主に上場企業さんを中心に義務化が進んでいる分野です。資金的な制約の大きい中小企業さんにとっては、同じやり方をそのまま取り入れるのは難しい場合も多いだろうと感じています。
ただ、給与決定のプロセスに社員さんご自身が関わる、という考え方自体は、会社の規模を問わず取り入れられるものだと思っています。情報開示のための体制づくりにコストをかけられなくても、対話の場そのものは、明日からでもつくることができます。
会社の状況に合わせて、次のように段階を踏んで始めていただくやり方もあります。
①まずは対象となる社員さんの範囲を絞って(たとえば管理職さんだけを対象にするなど)、対話の場を持つ
②半期ごとの申告と対話のサイクルをしっかり実施し、給与について自己申告することや、お互いを尊重して対話するという経験を積む
③制度運用が定着してきたら、対象者の範囲を少しずつ広げていき、対話の輪を広げていく
大がかりな制度を一度に整えようとするより、こうした小さな対話の積み重ねのほうが、結果として会社さんに合ったかたちに育っていくのではないかと感じています。
おわりに
賃上げや人的資本の情報開示をめぐる動きは、給与の水準や情報開示の話にとどまらず、給与をどう決めるかというプロセスそのものへの問い直しにつながっていくと感じています。
自己申告型給与制度は、その問い直しに対して、社員さんご自身が意思決定の席につくという新たな試みです。
一人ひとりが本来持っている可能性が広がる環境を、対話を通じて少しずつ整えていくことが、生きがいあふれる組織づくりにつながっていくと考えています。
◆◆ご質問やご相談は下記のページから◆◆
★お問い合わせページ → https://ikigai-lab.jp/contact/