自律促進系人事制度の課題
- カテゴリ:ノーレイティング(No Rating)
前回は「自律促進」の人事制度のメリットについてお伝えしましたので、今回はデメリットについて考えたいと思います。
※前回のブログ「社員さんが自律性を発揮できる人事制度」
メリットに対する言葉として「デメリット」という表現を使いましたが、実はデメリットとは考えておらず、乗り越えるべき「課題」だという認識です。
私は長年にわたって、「社員さんが自律性を発揮しやすい環境づくり」として『ノーレイティング型人事制度』の設計・運用コンサルティングを行ってきましたので、その課題がどれほど大きいかも認識しているつもりですが、
多くの組織がその課題を乗り越えたとき、社会が大きく変わるという確信を持っています。
話がテーマから逸れましたので戻しますと、今回は、自律促進の人事制度が乗り越えるべき「課題」について述べたいと思います。
人によって自律度に違いがある
まず、最大の課題といえるのは、人によって自律度に違いがあるということです。
私は、給与を社員さんの自己申告に基づいて決めていくという「自己申告型給与制度」を、お客様の組織で設計させていただいておりますが、
新人事制度の説明会で、社員さんに「これからは給与を自己申告で決めていきます」とお伝えすると、多くの社員さんは困惑した表情をされます。
最初から好意的に受け止めてくださる社員さんは、1~2割ぐらいでしょうか。
これはある意味で当然のことで、人間は何かに初めて取り組むときには、不安をもつものです。
加えて、「自分で決める」という行為には「責任」が伴いますので、「自分で決めたくない」という意識も働くこともあります。
「自分で決める」ということには、最後の最後で「勇気」が必要になります。
そういう責任を伴う意思決定に慣れていない社員さんにとっては、自分で給与を申告するというのは、大きなチャレンジになってきます。
また、意識面だけではなく、スキルの問題もあります。
現在の複雑化した社会環境のなかでは、自分で考えて、自分で決めるには、ビジョンを設定したり、仮説を立てたりするスキルなどが必要になりますが、
これらのスキルも、人によって習熟度に差があります。
つまりは、自分で決められる環境を整えたとしても、「自分で決められる人」もいれば、「自分ではなかなか決められない人」も出てくることになります。
これが、自律促進の人事制度の大きな課題だと考えています。
人が自律性を発揮すると組織構造が複雑化する
2つ目の課題としては、一人ひとりが自分で考えて主体的に行動するようになると、「組織構造が複雑化する」ことが挙げられます。
分かりやすいところでは、「きれいな組織図が書けない」ということが起こります。
意外なようですが、これを嫌う人が結構いらっしゃいます。
社員さんが自律的に行動するようになると、一つの成果物を生み出すために、部門を超えてさまざまな人が関わることになりますので、成果に対する貢献を個人に紐づけることが難しくなります。
このブログでもお伝えしたことがあるのですが、「成果主義人事制度のコンセプトは合理的に見えるが、実際には組織全体の成果にはつながらない」というのはこの点です。
成果主義人事制度だけではなく、社員さんに点数をつけるという構造を持つ従来型の人事制度は、社員さんの自律性を阻害します。
また、自律的に行動する人が増えると、誰が誰の指示で動いているのか、つまり「誰が上司で誰が部下なのか」ということが判別しづらくなります。
ある案件(プロジェクトや業務)ではフォロワーだった人が、別の案件ではリーダーになっているということが起こります。
これらのレポートラインを細かく拾って組織図にしようとすると、ゴチャゴチャした乱雑に見える組織図ができあがります。
組織構造が乱雑に見えるので、それらを整理しようと業務分析をして業務を整理したとしても、その瞬間に実態とは違う陳腐化したものになっています。
そもそも、自律した人の行動をコントロールしようとすること自体が無意味ですから、そういう統制のとれた(ように見える)組織構造ではなくなっていきます。
これが、課題の2つ目です。自律を基礎としたティール組織やホラクラシーでも同じことが言えると思います。
次に、組織のリーダー的な役割(一般的には経営者・管理職)の意識変革が課題となるのですが、それは次回にしたいと思います。