こんにちは。生きがいラボの福留です。
ここ数年、「賃上げ」という言葉を本当によく目にするようになりました。物価の上昇や人材の確保を背景に、多くの会社さんが給与の引き上げに頭を悩ませておられます。
そんななかで、「自己申告型給与制度にすると賃上げになるのですか?」というご質問をいただくことが増えてきました。
先に、この記事の要点をお伝えします。自己申告型給与制度は、賃上げを目的とした仕組みではありません。ただ、社員さんが自発的に動いた結果として、世間相場以上の賃上げになっているケースが多いのも事実です。そして、いま多くの会社さんを悩ませている「初任給の逆転現象」にも、この制度はひとつの答えを持っています。
今日は、賃上げと自己申告型給与制度の関係について、ティール組織の知見も交えながら、私なりに感じていることをお伝えしたいと思います。
目次
賃上げを「目的」にすると、かえって空回りする
賃上げは、社員さんにとってありがたいものですし、それ自体を否定するつもりはまったくありません。
ただ、賃上げそのものが目的になってしまうと、少し危ういとも感じています。
「給与を上げれば、社員さんは頑張ってくれるはずだ」という発想は、結局のところ、アメとムチで人を動かそうとする考え方とよく似ています。お金で意欲を買おうとすると、その瞬間は効いても、長くは続きません。
自己申告型給与制度は、給与を「過去への対価」ではなく「未来への投資」と位置づけています。社員さんを事業家、会社を投資家にたとえると分かりやすいかもしれません。投資家が事業に投資するのは、これから生まれる未来に期待しているからです。
ですから、この制度の出発点は「いくら上げるか」ではなく、「これからどんな未来を一緒に創っていくか」という対話にあります。賃上げは、その目的ではなく、対話の先に生まれてくる結果なのです。
それでも、なぜ給与は上がっていくのか?
おもしろいことに、賃上げを目的にしていないのに、自己申告型給与制度を導入された会社さんでは、世間相場以上に給与が上がっていくケースが多くあります。
その理由として、そこに自発性という鍵があると感じています。
自己申告型給与制度では、社員さんに、
①どんな貢献をするのか
②それがどれぐらいの給与に見合うのか
③どんな働き方をしたいのか
を、自分で考えて会社に申告してもらいます。
やるべきことを会社から示されるのを待つのではなく、自分で考えて決める。この一歩が、人間が本来持っている自発性を開放していきます。自分で決めたことには情熱が宿り、情熱があるからこそ挑戦が生まれ、挑戦が新しい貢献につながっていく。そして、その貢献への期待感によって、給与も上がっていくのです。
「それでは、社員さんが際限なく高い給与を求めるのではないか」と心配されるかもしれません。そのお気持ちはよく分かります。ただ、申告した額がそのまま通るわけではなく、会社と納得できるまで対話して決めていきます。お互いを尊重するパートナーとして向き合うからこそ、ワガママではなく、地に足のついた申告になっていくのです。
賃上げは、追いかけるものではなく、自律と対話の結果としてついてくるもの。これが、現場で私が感じていることです。
初任給の高騰が生んだ、「逆転現象」という悩み
もうひとつ、いま多くの会社さんを悩ませているテーマがあります。初任給の高騰です。
人材を確保するために初任給を大きく引き上げた結果、入社したばかりの1年目の社員さんが、2年目・3年目の社員さんよりも高い給与になる。そんな「逆転現象」が、あちこちで起きています。
これを放っておくと、先輩社員さんの不満につながりかねませんし、社員さんへの誠実さに欠けることにもなると思います。貢献度が高い社員さんが、1年目の新入社員さんよりも低い給与になっている状態は望ましくありません。
だからといって、若手社員さん全体のベースアップを一律で行うことは、「会社が給与を一方的に決める」という従来の給与決定プロセスに逆戻りしてしまいます。
会社が一律でベースアップを行うやり方は、相場が動くたびに、会社がその調整を一身に背負うことになります。そもそも、給与を会社が一律に決めるという構造そのものが、この苦しさを生み出しているのだと、私は思います。
問題は、誰かの意識ではなく、構造にあるのです。
情報の透明化が、会社を「一律調整」から解放する
ここで力を発揮するのが、ティール組織の大切な要素である「情報の透明化」です。
ティール組織のような自律分散型の組織では、一人ひとりが自分で判断して動くために、必要な情報に誰もがアクセスできることを当たり前にしています。給与の情報も、その例外ではありません。
給与情報を公開すると、社員さんは、世間の相場や社内の他のメンバーとのバランスを、自分の目で見て理解できるようになります。そのうえで「自分はこれだけの貢献をするから、これぐらいの給与にしたい」と申告し、会社と対話していく。つまり、会社が一律でベースアップを行わなくても、給与の調整が一人ひとりの判断と対話に委ねられるのです。
逆転現象が起きても、当事者同士が情報を見ながら対話で解いていけるので、会社が一律の条件を意思決定する必要がなくなります。
私が自己申告型給与制度の設計・運用のサポートをしている企業さまでは、初任給高騰による逆転現象への対応として、来年度の新卒入社の社員さんの初任給を社内に情報提供を行い、あとはそれぞれの社員さんの判断に任せています。
たとえば、2年目の社員さんの場合でも、この1年間で自分はものすごく成長したと感じている社員さんは、自分の後輩になる新入社員さんの給与額を参考に、自信をもって高い給与額を申告されるでしょうし、この1年でそんなに成長した実感のない社員さんは、もしかしたら初任給とあまり変わらない額を申告するかもしれません。
そのあたりも含めて、ご本人に考えてもらうことが大切なのだと思いますし、会社が一律でベースアップをすれば、この内省が生まれることがありません。
一方で、「給与を公開したら、不満が噴き出すのではないか」と感じる方もおられるかもしれません。その不安も、よく分かります。ただ、私の経験では、不満はむしろ「隠されているから」生まれます。自分にとって大切なことが、見えないところで決められるから、納得できないのです。
情報の透明化は、信頼の結果ではなく、信頼を育てるための環境づくりです。オランダの訪問看護組織ビュートゾルフが、情報を全員で分かち合うことで一人ひとりの自律を支えているように、透明であることが対話を生み、対話が信頼を育てていきます。
もちろん、いきなりすべての情報を公開する必要はありません。会社の状況に合わせて、無理のないところから少しずつ進めていくことが大切だと思います。
会社やチームの業績などの情報については、限りなく100%に近い公開が望ましいと思いますが、それぞれの社員さんの給与情報の公開については、私は慎重に進めていくアプローチをとっています。このあたりのことも、機会があればブログでも触れたいと思います。
おわりに
賃上げは、目的にするものではなく、一人ひとりの自律と対話の先に生まれてくる結果なのではないか。私はそう考えています。
初任給の高騰も、逆転現象も、つきつめれば「給与を会社が一律に決める」という構造から生まれています。その構造を、情報の透明化によって、一人ひとりの判断と対話へとひらいていく。それが、自己申告型給与制度とティール組織の世界観が重なり合うところです。
会社が賃上げを一身に背負って苦しむのではなく、社員さんと経営者さんが、未来に向けて給与を一緒に考えていく。そんな関係性が広がっていけば、これほど嬉しいことはありません。
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