こんにちは。生きがいラボの福留です。
先日、ある経営者さんから「人事評価のないノーレイティングでは、社員が育たなくなるのではないですか?」というご質問をいただきました。米国を中心に導入されている「ノーレイティング」では、人事評価による点数づけやランクづけが廃止(あるいは部分的に廃止)されますので、成長のためのフィードバックがなくなることを心配するのは当然かもしれません。
今日は、ティール組織・自律分散型組織にマッチする人事制度という文脈で、評価や等級という点数づけとランクづけの仕組みがない環境のなかで、人がどう力を伸ばしていくのかについて書きたいと思います。
先に、この記事でお伝えしたいことを三つにまとめておきます。一つ目は、力を伸ばすことは育てることではなく、力が発揮される環境を整えることだという考え方です。二つ目は、その環境づくりの土台としての役割も自己申告型給与制度にはある、ということです。三つ目は、この進め方にはメリットだけでなく、正直にお伝えしておきたいデメリットもあるということです。
目次
「人事評価をなくしたら人が育たなくなる」という心配
人が成長するには、ご自身の長所と短所を自覚することが必要です。その意味で、人事評価には社員さんの成長をうながすことが期待されます。目標を立て、達成度を測り、足りないところを次の課題にする。この繰り返しで課題が明確になって人は伸びていく、という目的です。
そう考えると、人事評価をなくすことは、成長の階段を取り外してしまうようにも見えます。
ただ、私の経験では、少し違う景色が見えてきます。人事評価があることが、人の成長を阻害してしまうケースをたくさん見てきました。この記事では、この点について言及していきたいと思います。
余談になりますが、私は普段「人材育成」「人材開発」という言葉をあまり使いません。育てる側と育てられる側という上下関係を思わせる言葉だからです。ただ、この記事では一般に広く使われている言葉ですので伝わりやすさを重視して、人材育成という言葉を使っていきます。
「育てる」という発想から「力が発揮される環境を整える」という発想へ
自律分散型組織やティール組織における組織観では、組織を機械ではなく生命体として捉えます。
機械であれば、外から部品を調整して性能を上げる発想になります。生命体であれば、すでにそのなかにある力が、環境しだいで発揮されたりされなかったりする、という発想に近づきます。
だから私は、人事制度にできるのは力を外から足すことではなく、力の発揮を妨げているものを取り除いて、環境を整えることだと考えています。
評価のための目標設定、点数をつけるための面談、順位づけのためのルール。これらが、かえって一人ひとりの情熱や挑戦をしぼませていると考えています。
成長とは正解を外に置かなくなること
成人発達理論には、人の成長を「正解を外に置かなくなること」と捉える見方があります。私が人の成長を考えるときの、大切な軸のひとつです。
働き始めたばかりのころは、多くの人が正しいやり方を上司や会社という、自分の外側から得ようとします。それ自体は自然なことだと思います。
ただ、経験を重ねるにつれて、正解を自分のなかに見いだせるようになっていきます。だとすれば、関わり方も相手の状態に合わせて変わってよいはずです。外に正解を探している段階の人には、一緒に見取り図を描くことが助けになります。自分のなかに軸を持ち始めた人には、手を離して任せることのほうが力になります。
人事評価項目を示すことは、外から正解を示すという意味を持ちます。そして、人事評価で点数づけやランクづけをすることは、外から示した正解に基づいて採点をすることです。習熟度が浅い社員さんについては、成長をサポートする取り組みとして機能すると思います。しかし、いつまでも正解を外から示し続けることは、成人発達理論の視点からも望ましい状態ではなく、逆に人の成長を妨げてしまうと考えています。
人が成長する過程では、外から正解を示す人事評価ではなく、ご自分の内面に向き合ってもらう場が必要なのだと思います。それが、自己申告型給与制度です。
自己申告型給与制度が学びと成長のサイクルを回す
ご自分の内面に向き合ってもらう場としての自己申告型給与制度では、社員さんご自身に三つのことを申告していただきます。どんな貢献をするか。それがどれぐらいの給与に見合うか。どんな働き方をしたいか。
この三つを自分で考える過程が、そのまま自分は何をやりたいのかという「Will」に向き合う時間になります。会社から目標を示すのではなく、ご本人の内側から出てくる言葉を起点にする。この順番の違いが大きいと感じています。
成長課題を明確にするという視点で、360度評価制度(360度フィードバック制度)を導入している会社さんもいらっしゃいます。人事評価の一環として点数をつける360度評価は、匿名だと過度な批判の場になりやすく、実名だと内容の薄いフィードバックになりやすいという、コンセプトは素晴らしいのですが運用がなかなか難しい仕組みですが、ノーレイティングでは360度評価でも点数をつける必要がなくなりますので、純粋に成長課題を提供する場として機能しやすいとも感じています。
また当社での自己申告型給与制度においては、自己申告のプロセスのなかには、他者と1on1を複数回行う仕組みが自然に溶け込んでいます。以前は360度評価制度を独立して運用していた時期もありましたが、他者からのフィードバックを得る機会として1on1がそれに代わる場となっています。
自己申告型給与制度では、対話を会社から提示される目標からスタートするのではなく、一人ひとりの「Will」を起点にして、まわりの声をしっかりと受け取り、目標や給与額などの次の貢献を自分で決める。このサイクルが半年ごとに回っていきます。

力が伸びる環境をどのように整えていくのか
これまでお伝えしてきた通り、ノーレイティングでは人事評価での点数づけやランクづけがなくなります。さらに自己申告型給与制度では、ご自分の内面に向き合うところからスタートするのですが、実際に現場でお手伝いしている関わり方を、いくつか挙げてみます。
一つ目は、Willを言葉にする対話です。入社されて間もない社員さんは、自分に何ができるのか分からないことが多いので、まず目標やできることを一緒に探すところから始めることが必要となります。
二つ目は、貢献の幅を広げる機会をつくることです。いつもと違う仕事や、部署をまたいだ関わりのなかで、自分の新しい面に気づく方は多いです。「こんなことをしてみたらどう?」というような提案を行い、新たなことへのチャレンジをサポートしています。
一般的な人事評価をする人事制度では、多くの場合は「達成度」で評価するので、新しいことへのチャレンジを躊躇させてしまうことがあります。しかし自己申告型給与制度では、未来への投資という位置づけで給与額を決めていきますので、新しいことにチャレンジすることがご自分の給与額にもプラスの影響を与えることになります。
三つ目は、まわりからのフィードバックを受け取る場を設計することです。上司一人からのフィードバックではなく、複数の他者からのフィードバックを聞くことで、自分では気づけなかった強みが見えてきます。ティール組織は「助言プロセス」という意思決定をサポートする仕組みがありますが、関係者からのフィードバックを受け取る場はとても大切だと考えています。
四つ目は、内省の時間です。忙しさのなかでは、自分が何をしたいのかを考える余白がなくなります。申告のサイクルは、その余白を半年ごとに設ける仕組みでもあります。
正直にお伝えしたいメリットとデメリット
ここまで、人事評価による点数づけ・ランクづけがないことで、人材育成/人材開発がどう変わるかについて、特にノーレイティングや自己申告型給与制度での成長機会の提供という視点でお伝えしてきました。
どんな施策もメリットとデメリットがありますので、それらについてもお伝えしたいと思います。
メリットは、内側から出てくる情熱を土台にできることです。正解が外から与えられないぶん、社員さんは自分で考え、自分で決めるようになります。人事評価の点数に縛られていた社員さんが、自分のやりたいことを軸に動きはじめる。その変化を目にするたびに、人の内側には、もともと力があるのだと感じます。
一方で、デメリットもあります。まず、評価という分かりやすい基準がなくなることに、戸惑う社員さんがいらっしゃいます。とくに、これまで評価で高い点をとることを励みにしてきた方には、切り替えに時間がかかります。
次に、成果が見えるまでに時間がかかります。自分で決めた挑戦が形になるには、半年や一年では足りないこともあります。短期の数字だけを見ていると、遠回りに見える場面もあります。
導入で大切にしたいこと
最後に、導入までの進め方で大切にしたいことを書きます。
人事評価をなくすこと自体を目的にしないことです。大事なのは、一人ひとりが力を発揮できる環境を整えることであって、制度を減らすことではありません。
会社の状況によって、進め方は変わります。人数や事業のフェーズ、これまでの人事制度の歴史によって、ちょうどいい歩幅は違います。一律のやり方を当てはめるのではなく、その会社さんに合わせて一緒に考えていくことを大切だと思います。
そして、対話の質です。仕組みをどれだけ整えても、そこで交わされる対話が浅ければ、人の成長をサポートすることはできません。仕組みは脇役で、主役はいつも対話だと考えています。
おわりに
人事評価のない組織で人が成長するのは、放っておいても育つからではありません。未熟な人を育てるという発想の関わりではなく、そもそも成長意欲のある人の力が発揮される環境を整える関わりへと、関わり方が変わるからだと思っています。
その中心には、社員さんご本人と経営者さんが、これからの貢献について語り合う対話があります。自己申告型給与制度は、その対話が半年ごとに生まれる仕組みです。
一人ひとりが自分のWillからスタートして、自分の力を伸ばしていける。そんな環境づくりのお手伝いを、これからも続けていきたいと願っています。
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