こんにちは。生きがいラボの福留です。
以前のブログで、ティール組織にマッチする人事制度について、等級・評価・給与という3つの柱から整理しました。
今回は見る角度を変えて、ティール組織の3つの特徴であるセルフマネジメント・ホールネス・存在目的の側から、人事制度を考えてみたいと思います。
この記事では、①人事制度は会社が人をどう見ているかを伝えるメッセージであること、②ティール組織の3つの特徴ごとに見た、従来型の人事制度とティール組織にマッチする人事制度のメッセージの違い、③自社の人事制度が伝えているメッセージを確かめる問い、の3点についてお伝えします。
先に要点をお伝えすると、ティール組織にマッチする人事制度とは、ティール組織の3つの特徴と同じメッセージを、給与の決まり方を通して実現に近づける人事制度だと考えています。
目次
人事制度は言葉よりも強くメッセージを伝える
ティール組織や自律分散型組織を目指す会社さんのなかには、理念や日々の言葉では「自律」の大切さを伝えているのに、人事制度は従来のままでその正反対のメッセージを発している、という状況によく出会います。
人事制度は、給与という生活に直結するものを扱いますので、社員さんの関心の高いテーマです。だからこそ、会社が社員さんをどう見ているかという人間観が、言葉よりも強く伝わるのだと感じています。
たとえば、言葉で「自分で考えて行動する」ことの大切さを伝えていても、給与が上司のつけた点数でご本人の知らないところで決まるのであれば、社員さんが受け取るメッセージは「最後は上司が決める」になります。言葉と人事制度が違うことを語っているとき、社員さんに届くメッセージは、形になっている人事制度の方が強くなるのだと思います。
従来型の人事制度が悪いわけではありません。評価基準が明確だと、何を目指せばよいかが分かりやすくなります。仕事に慣れていない段階では、評価基準が道しるべとして機能する場面もあると思います。
ただ、ティール組織は、組織を機械ではなく生命体として捉える組織観に立っています。組織観が変わったのに、人事制度が伝えるメッセージが以前のままだと、社員さんは2つの違うメッセージのあいだで戸惑うことになります。
フレデリック・ラルーさんは著書『ティール組織』のなかで、ティール組織の特徴を3つ挙げています。セルフマネジメント(自主経営)、ホールネス(全体性)、エボリューショナリーパーパス(存在目的)です。ここからは、3つの特徴それぞれについて、人事制度が伝えるメッセージを見ていきます。

「セルフマネジメント」を人事制度に当てはめると、自己決定できる仕組みになる
ティール組織における「セルフマネジメント」は、チームが自律的に意思決定し動ける環境ということですが、個人では上司の指示や承認を待つのではなく、一人ひとりが自分で判断して主体的に行動することです。
従来型の人事制度では、会社が決めた人事評価項目にそって行動することを求められます。また目標管理では、期初に立てた目標の達成率に上司が点数をつけ、点数をもとに会社が給与を決めます。これらの構造から社員さんに伝わるメッセージは、「あなたの目標は会社が決めます」です。
すると、社員さんの頭のなかから「顧客のために自分がどう行動すればよいのか?」「チームのために自分が貢献できることは何なのか?」という問いが姿を消し、「私が何をすべきかを会社や上司が示してください」という意識になります。会社から提示されない目標や行動は、人事評価の対象にならないので、「やった方がいい」と気づいていたとしても実際には実践しません。「指示されたことだけやる」という雰囲気が蔓延していきます。
会社には存在目的がありますから、個人が好き勝手に動いて、組織として方向性がバラバラだと存続できなくなります。ですので、組織が進む方向性を示すことは大切です。しかし、そのなかで社員さんの行動を制限してしまうような固定的な仕組み(人事評価項目など)は、社員さんが自分で考える余白を奪ってしまい、社員さんが本来持っている創造性や自発性を阻害してしまいます。
ティール組織における「セルフマネジメント」にマッチするのは、社員さんが自分の目標や貢献を考える人事制度です。私が2010年から取り組んでいる自己申告型給与制度では、社員さんご本人が、①どんな貢献をするか、②それがどれぐらいの給与に見合うか、③どんな働き方をしたいか、の3点を会社に申告します。
申告したことがそのまま自動的に通るわけではありません。ご本人と会社との対話という最終決定までご本人が意見を伝える場があり、お互いが納得するまで対話をして決めていきます。従来型の人事制度でも、人事評価や目標の自己申告を取り入れている会社もありますが、最終的には会社がご本人のいないところで決めるという構造ですし、給与まで自己申告できる仕組みにはなっていません。この点が、従来型人事制度と自己申告型給与制度の大きな違いです。
ティール組織には、意思決定をする人が、関係者や詳しい人に助言を求めたうえで自分で決める「助言プロセス」という仕組みがあります。自分の考えを先に示し、まわりの声を受け取りながら決めていくという点で、給与の自己申告は助言プロセスそのものです。
給与決定にもご本人も関わる自己申告型給与制度が伝えるメッセージは、「あなたの貢献と給与を、あなたと一緒に考えましょう」です。
「ホールネス」を人事制度に当てはめると、仕事以外も含む人生まるごとを対話する仕組みになる
ティール組織における「ホールネス」とは、職場で自分を偽る仮面をつけることなく、ありのままの自分でいられることです。
従来型の人事制度では、人事評価で点数やランクづけをしなければなりません。なぜなら、それが給与決定の根拠になる仕組みだからです。その仕組みのなかでは、だれが見ても納得できる評価基準にすることが求められます。人事評価項目と評価基準に「客観性」や「公平性」が求められるのは、こういう背景によるものです。
客観性や公平性は素晴らしい考え方ですが、何が問題になるかというと、人事評価項目が「数値化できるもの」「達成・未達成がはっきり分かるもの」ばかりになり、社員さんの貢献全体を表さないようになることです。
数値化しにくい行動などは、人事評価項目からこぼれ落ちやすくなります。たとえば、新しく入った人に声をかけることや、部署をまたいで困りごとを拾うような行動です。人間としてのあり方も、人事評価項目の外に置かれます。これはホールネスを欠いた状態といえると思います。
もうひとつ、給与について自分の考えを話せる公式の場がないことも、ホールネスから遠ざかる要因だと考えています。従来型の人事制度では、給与額について公式の場で話す機会はありません。また、給与額について会社に意見を言いたいときには個別に言うしかなく、多くの場合は「給与に文句を言ってくるややこしい社員」というレッテルが貼られます。
このような事情があると、社員さんの立場からすると給与についての本音は、不満という形で陰で言うしかなくなります。
ティール組織における「ホールネス」にマッチするのは、給与額や副業、転職などの一般的には公の場では言いづらいテーマについても、本音で語れる対話の場としての人事制度です。
点数づけやランクづけをしなければならない従来型の人事制度のなかでは、これらの対話をすることが難しくなります。なぜなら、上で述べたように、点数づけしやすい人事評価項目に偏るからです。点数づけやランクづけをやめることは、ノーレイティングと呼ばれます(人事評価をすべてやめる場合だけでなくランクづけだけをやめる場合も含みます)が、給与を自己申告するところまで踏み込まなくても、ノーレイティングにするだけでも、上司と部下の1on1にホールネスが取り入れやすくなると思います。
自己申告型給与制度では、数字にしづらい貢献や、人としてのあり方も、対話のテーブルにあげて一緒に探求していきます。社員さんが人生のなかで大切にしたいことや挑戦したいことを本音で語ってもらい、社員さんを独立した個人として尊重しながら、その対話の一環として給与額というテーマも扱っていきます。
人生をテーマに対話できる人事制度が伝えるメッセージは、「何でも本音で対話する関係をつくりたい」です。
「エボリューショナリーパーパス」を人事制度に当てはめると、対等なパートナーとして未来について対話する仕組みとなる
「エボリューショナリーパーパス(存在目的)」とは、組織が何のために存在し、どこへ向かおうとしているのかということで、しかもその目的が固定的ではなく進化するということです。ティール組織では、エボリューショナリーパーパスを、決めたら動かさない目標として扱うのではなく、環境の変化を感じ取りながら進化していくものとして捉えます。
従来型の人事制度は、期初に決めた目標や評価項目に対して、期末に過去の結果を採点します。社員さんに伝わるメッセージは、「会社が決めた基準に向かって動いてください」です。
人事評価の結果が処遇面(給与や賞与)に連動する仕組みのうえだと、社員さんの意識は、組織の存在目的よりも、人事評価項目の方が強く働くようになります。加えて、会社が人事評価基準を示して社員さんはそれを受け取るだけ、という構図は、社員さんの頭のなかに「会社が上で自分が下」という意識を植え付けてしまいます。
ティール組織における「エボリューショナリーパーパス」にマッチするのは、過去の採点ではなく、未来を語り合う人事制度です。自己申告型給与制度では、給与を「過去の成果への対価」ではなく、「未来への期待をこめた投資」と位置づけています。「未来志向」という考え方です。半期ごとに、組織が向かおうとしている方向に対して自分はどんな貢献をしたいのかを、社員さんご本人が考えて申告します。
ここで手がかりになるのが、ピーター・カーニックさんが体系化した「ソース原理」です。ソース原理では、リスクをとって一歩目を踏み出し、何かを始めた人が、その活動のソース(源)であると捉えます。
権限や意思決定の分散を進めるほど、組織の向かう先が見えにくくなることがあります。だからこそ、会社のソースである経営者さんが、会社として大切にしたいことや方向性を示すことが大切になります。そして、社員さんの関心が高い給与について、給与決定の方針を示すことはとてもインパクトの大きいメッセージになります。
経営者さんが示した方針という大きな枠のなかで、社員さんが自分の貢献(目標)を考えることは、その目標については社員さん自身がソースになるということです(これをソース原理ではサブソースといいます)。このときの経営者さんと社員さんの関係は、上下関係ではなく、同じ方向に進んでいる仲間という関係になります。
誤解のないように添えると、自律分散は自分勝手とは違います。給与を自己申告する人事制度も、わがままを肯定する仕組みではなく、組織の存在目的と自分の意思を重ねていくための対話の仕組みだと考えています。
未来の貢献を語り合う人事制度が伝えるメッセージは、「パートナーであるあなたと一緒に未来を考えたい」です。
人事制度が伝えているメッセージを確かめる3つの問い
ティール組織にマッチする人事制度を探求するときに、決まった手順はないと思っています。会社の規模や歴史、現在の文化によって、進め方は変わるからです。ただ、いまの人事制度が伝えているメッセージを確かめる問いは、どの会社さんでも使えると考えています。
■自分の給与が決まるプロセスに、社員さんご本人が関わる場面はあるか?
■数字にしづらい貢献や給与についての本音を、公式の場で語ることができるか?
■過去の採点よりも、未来を一緒に探求する関係になっているか?
3つの問いは、セルフマネジメント、ホールネス、エボリューショナリーパーパスにそれぞれ対応しています。経営者さんだけで答えを出すのではなく、社員さんと一緒に確かめていくことが、対話の始まりになると感じています。
人事制度の見直しを進めるときに、私が大切にしていることが2つあります。
一つ目は、切り替えのときに伝わるメッセージです。私がお手伝いするときには、切り替え時に一人も給与を下げない方針にしています。新しい人事制度が「給与を下げるための仕組み」として受け取られると、対話が始まらないからです。
二つ目は、判断の材料となる情報です。自分で考えて申告するには、業績などの組織の情報が欠かせません。組織の情報を社員さんに届けることが、3つの特徴すべての土台になると考えています。
おわりに
ティール組織にマッチする人事制度では、ティール組織の3つの特徴と同じメッセージを、給与の決まり方でも伝える必要があると考えています。それらのメッセージが、言葉だけでなく人事制度からも発せられるとき、社員さんはそのメッセージを信じることができます。
ティール組織にマッチする人事制度というテーマで、等級・評価・給与という人事制度の3つの柱から整理した記事はこちらです。あわせてお読みいただければうれしく思います。
『ティール組織にマッチする人事制度とは?等級・評価・給与の設計を実践から解説』
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