こんにちは。生きがいラボの福留です。
給与を自己申告する人事制度についてお話しすると、経営者さんから「人件費が増えるのではないですか」というご質問をよくいただきます。
結論から申し上げると、人件費は増えます。ただ私は、増えた人件費をコストの増加ではなく、未来への先行投資だと考えています。
この記事では、給与を投資と捉える経営が実際にどう進むのかを、時間の流れに沿って整理します。①投資するまえ、②投資するとき、③投資したあと、④期待どおりに進まなかったとき、の4つの場面です。
以前、賃上げというテーマから、給与という投資の判断をだれが担うのかについて書きました。今回は見る角度を変えて、投資が決まるまえから決まったあとまでを、順番にたどっていきたいと思います。
目次
人件費をコストと捉えると、給与が上がるのは成果が出たあとになる
多くの会社では、人件費はコストとして管理されています。
利益が残らなければ会社は続きませんから、人件費を管理することは経営に欠かせない仕事です。コストと捉えること自体が悪いわけではありません。
ただ、人件費をコストと捉えると、給与が上がるタイミングは、成果が出たあとになります。確定した成果に対して支払う方が、コストとしては安全だからです。
そうすると、新しいことに挑戦するときの不確実性は、社員さんが一人で引き受けることになります。一般的な人事制度では、挑戦してうまくいかなければ、人事評価が下がるかもしれません。その構造のなかでは、確実に達成できる目標を選ぶ方が合理的になります。
確実な目標を選ぶのは社員さんの意識の問題ではなく、給与が決まるタイミングという構造の問題だと考えています。
給与を投資と捉えると、順番が逆になります。挑戦を始めるタイミングで、これからの貢献に期待して給与が決まります。挑戦にともなう不確実性を、会社と社員さんが一緒に引き受けることになります。
ここからは、給与を投資と捉える経営が実際にどう進んでいくのかを、4つの場面の順番に見ていきます。
投資するまえに会社の状況を社員さんと共有する
給与に対する投資の話を始めるまえに、欠かせない準備があります。会社の状況を社員さんと共有することです。
自己申告型給与制度では、社員さんが自分の貢献と、その貢献に見合う給与額を考えて申告します。そのとき、会社がいまどんな状況にあり、どこへ向かおうとしているのかが分からなければ、社員さんは自分の給与額を考えるための材料を持てません。
社員さんに任せると、会社全体を見ない判断になるのではないか、と心配される方もおられると思います。
ただ私の経験では、視座が低いように思える意思決定は、ほとんどの場合、情報不足から起こります。業績や方針といった組織の情報が共有されていれば、社員さんは会社の状況を踏まえて、自分の貢献を考えることができます。
会社には存在目的がありますから、組織が進む方向性を示すことも、投資するまえの経営者さんの大切な役割です。方向性という大きな枠があるからこそ、社員さんは「組織の目的に向かって、自分はどう貢献するか」を考えることができます。
投資するときに人件費は5〜7%ほど増える
次は、実際に投資を決める場面です。
正直にお伝えすると、従来型の人事制度から自己申告型給与制度に切り替えるとき、人件費は平均して5〜7%ほど増えます。多い会社さんでは10%ほどです。
増える理由は2つあります。
■切り替えのときには、一人も給与額を下げない方針にしていること
■若手社員さんが魅力的な提案とともに申告し、給与額が大きく上がることが多いこと
とくに二つ目は、私が現場で何度も見てきたことです。若手社員さんが「これに挑戦したい」と自分の言葉で語り、会社がその挑戦に期待をこめて投資します。
資金的な制約の大きい中小企業の経営者さんにとって、5〜7%という数字は軽いものではないと思います。
ただ、自己申告型給与制度のコンセプトとしては、社員さんが申告した貢献がすべて実現すれば、人件費が増えた分を賄えるだけの利益が残る、という考え方です。成果が出てから支払うのではなく、楽しみな未来に期待して先に投資する。先行投資と呼んでいるのは、このためです。
なお、申告した給与額がそのまま自動的に決まるわけではありません。最終決定までご本人が意見を伝える場があり、お互いが納得するまで対話をして決めていきます。
投資したあとは半年ごとに対話で振り返る
投資は、決定して終わりではありません。投資したあとの振り返りが、給与を投資と捉える経営の要だと考えています。
私がサポートしている会社さんの多くは、半期に1回のペースで自己申告の機会を設けるところから始めます。
半期に1回にしているのは、大胆な先行投資をしても、半年後に振り返ることができるからです。振り返りの機会が1年先だと、会社も社員さんも、思い切った投資に踏み出しづらくなります。
ここで大切にしたいのは、振り返りを採点の場にしないことです。
未来の貢献は、投資を決めた時点では結果が確定していません。半年たてば、うまく進んだことも、想定と違ったことも見えてきます。何が起きたのか、次の半年で何に取り組むのかを、会社と社員さんが一緒に探求していきます。振り返りは、次の投資を考えるための対話です。
対話に慣れてきた会社さんでは、年に1回のペースへ移していくこともあります。
人件費の面では、切り替えたあとの運用に入ると、上がり幅は平均して2%前後に落ち着くことが多いです。切り替えのときの5〜7%は、毎年続く数字ではありません。
実際には、半年間は放っておくわけではなく、月に1回ぐらいのペースで1on1を行い、進捗状況を共有して、達成を応援していきます。一緒に達成を目指し、サポートすることが大切だと考えています。
期待どおりに進まなかったときは不確実性を双方で引き受ける
投資である以上、期待どおりに進まないこともあります。
投資という言葉から、「結果が出なければ会社が給与を下げる仕組みなのか」と誤解されるかもしれませんので、先に申し上げます。会社の方から一方的に給与額を下げることは、一切ありません。
そのうえで、運用に入ってからは、ご本人の申告にもとづいて給与額が下がることはあります。
たとえば、期待をこめて給与額が大きく上がった社員さんが、半年たっても結果につながらなかった場合です。私が何度も経験してきたのは、そのようなとき、多くの社員さんがご自身から給与額を下げて申告される、ということです。「期待してもらったのに応えられなかったので」という理由です。
人は信頼されると、信頼に応えたいという誠実さが湧いてくるのだと思います。
給与を投資と捉えるということは、会社だけが不確実性を引き受けることでも、社員さんだけが引き受けることでもありません。
会社は先に投資するという覚悟を持ち、社員さんは申告した貢献に向き合うという覚悟を持ちます。覚悟をもって貢献し合うこと(=覚悟の交換)が、投資という関係の土台になると考えています。
給与を投資と捉えると、経営者さんの仕事は配分から対話へ変わる
4つの場面を通して見ると、経営者さんの仕事の内容が変わっていくことが分かります。
人件費をコストとして管理する経営では、限られた原資をだれにどれだけ配分するかを決めることが、経営者さんの仕事になります。配分を決める以上、だれが見ても納得できる基準が求められ、点数づけの仕組みが必要になっていきます。
給与を投資と捉える経営では、経営者さんの仕事は次のように変わります。
■投資するまえ:会社の状況と進む方向性を示す
■投資するとき:社員さんの申告を聴き、期待をこめて投資する
■投資したあと:目標の進捗を一緒に振り返り、達成を応援する
■期待どおりに進まなかったとき:不確実性を一緒に引き受ける

どの場面でも、中心にあるのは対話です。
正直にいうと、対話には時間がかかります。配分を一人で決める方が、ずっと早いと思います。経営者さんにとって、決める力を手放すことには勇気もいります。
それでも、社員さんの申告を通して、一人ひとりが何に挑戦したいのか、何を大切にしたいのかが、経営者さんに届くようになります。社員さんにとっては、自分の貢献を自分で考え、言葉にする機会になります。
社員さんご本人と経営者さんの双方にとって、意義のある時間だと感じています。
おわりに
給与を投資と捉えることは、人件費の呼び方を変えることではないと考えています。
投資するまえに状況を共有し、期待をこめて投資し、一緒に振り返り、不確実性を双方で引き受ける。4つの場面を会社と社員さんがともに歩むことが、対等なパートナーとしての関係を創っていくのだと思います。
賃上げというテーマから、投資の判断をだれが担うのかを考えた記事も、あわせてお読みいただければ嬉しく思います。
→ https://ikigai-lab.jp/management/hr-system/4849/
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