自己申告型給与制度の世界観では賃上げがどんな意味を持つか? | 【自己申告型給与制度設計運用|生きがいラボ】

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自己申告型給与制度の世界観では賃上げがどんな意味を持つか?

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いつもありがとうございます。生きがいラボの福留です。

2026年の春闘のニュースでは、賃上げ率が3年連続で5%台を維持しました。ただ、資金的な制約の大きい中小企業では、ただ単に社会情勢に追随するかたちでの賃上げではなく、そこにどんな意味を持たせるかが大切だと思います。この記事では、自己申告型給与制度という制度の視点から、物価高への対応から未来への投資という意味で賃上げを位置づけ直してみたいと思います。給与を投資として捉えたとき、その投資の判断を誰が担うのかという問いに行き着きます。

物価上昇への対応から変化しつつある賃上げの目的

これまでの賃上げは、物価上昇に賃金がどれだけ追いつくかという議論として語られることが多かったと感じています。

ただ、最近の動向を見ていると、賃上げの位置づけが少しずつ変わってきているようです。人的資本経営に代表されるように、物価高への対応という守りの発想から、人材の確保や定着という、いわば未来への投資としての発想へ移りつつあるように感じます。

これは、私が10年以上取り組んできた自己申告型給与制度の考え方と、とても近い方向だと感じています。2026年3月期から始まった人的資本開示の拡充も、根っこにあるのは同じ流れだと感じています。

なぜ投資と位置づけながら判断を会社だけがしているのか

人的資本経営では、人件費をコストと考えるのではなく、持続的な成長を実現するための「投資」と位置づけています。人的資本ROIを長期的に高めるためには、社員さんのエンゲージメントも高める必要がある、というロジックです。このロジックの流れ、つまり目的と手段が、私の価値観とは逆なのですが、どちらも大切という点においては共通しています。

しかし、ここにひとつの違和感を抱いております。

人件費を人材への投資だと位置づけるのであれば、投資を受け取る社員さんの声が反映される必要があると考えるからです。事業への投資でも、投資家が勝手に投資額を決めるのではなく、その事業がどれぐらいの価値があるのかを事業家が説明し、投資家はそれを参考にするはずです。しかし、人材への投資では、その点の議論がないように感じます。

従来型の人事制度では、投資額にあたる給与を決めるプロセスに、社員さんご本人が加わる場面はほとんどありませんでした。会社が一方的に評価し、金額を示す。社員さんはそれを受け取るだけ、という構造です。

投資という言葉を使うのであれば、投資を受け取る側の声も、判断のプロセスに映し出されるべきではないかと考えています。

給与を自己申告すると共同責任で投資判断を行うことになる

自己申告型給与制度は、この違和感への回答になっていると感じています。

社員さんご本人が、自分がどんな貢献をするか、それがどれぐらいの給与に見合うか、どんな働き方をしたいかを申告します。会社は一方的に決めるのではなく、その申告をもとに経営者さんと社員さんが対話をして、最終的な給与を決めていきます。

会社と社員さんが対等な立場で投資額を決めていく、共同責任の仕組みだと捉えています。

給与を投資と捉えたときの、従来型の給与決定と自己申告型給与制度の決定プロセスの対比図
従来型の給与決定と自己申告型給与制度の比較

給与を投資と捉える3つの要素

この考え方を支えている要素は、大きく3つあると考えています。

一つ目は自己申告です。給与額を会社が一方的に示すのではなく、社員さんご本人の申告から始まります。

二つ目は未来志向です。過去にどれだけの成果を出したかという清算ではなく、これから何をするかという期待に対して、給与という投資をします。

三つ目は総合判断です。数値化できる結果だけで機械的に決めるのではなく、数値化しづらいことや確定していないことも対話もテーブルにあげ、深い対話を通して給与額を探求していきます。

実際の対話ではどのようなやり取りが起こるのか

私が携わってきた会社さんの多くは、スタート時は半期に1回のペースで申告の場を設けています。導入から時間が経ち、対話に慣れてきた会社さんでは、年に1回のペースへ移していくこともあります。

社員さんお一人あたりの対話時間は、だいたい30分から40分ほどです。社員さんから申告内容を提出してもらい、その後に上司(上司以外のこともある)との対話を経て、複数の目で申告を対話する場を設けます。私はこの場を投資委員会と呼んでいます。金額を一方的に決める場ではなく、申告に対してフィードバックをし、一緒に考える場だと位置づけています。

たとえば、これまで担ってきた業務に加えて、新しい役割に挑戦したいという申告が出てくることもあるでしょうし、家庭の事情でしばらく働き方を抑えたいという申告が出てくることもあるかもしれません。申告どおりの金額になることもあれば、対話のなかで金額や役割の認識がすり合っていくこともあります。

大切なのは、結果として決まった金額そのものより、そこに至るまでの対話のプロセスを、社員さんご本人が経験しているという点だと考えています。

この仕組みは経営者さんと社員さんの双方にとって意味がある

自己申告型給与制度は、社員さんだけにメリットがある仕組みではありません。

社員さんにとっては、自分の貢献や希望する働き方を、自分の言葉で伝える機会になります。

経営者さんにとっても意味があります。社員さんの申告を通じて、現場でどんな挑戦をしたいと考えているか、どんな不安を抱えているかが見えてきます。アメとムチで人を動かそうとするより、対話を通じて実態を把握するほうが、経営の判断材料も豊かになっていくと感じています。

社員さんご本人と経営者さんの双方にとって意義深い仕組みだと、10年以上取り組んできて実感しています。

対話がなければ投資は一方通行になってしまう

ここで大切にしたいのは、申告した金額がそのまま通るわけではないという点です。会社全体の状況を踏まえた一定の配分的な公平性は、当然必要だと思っています。

社員さんの申告と、会社が置かれている状況とのあいだには、当然ずれが生まれることがあります。そのずれを埋めるのが、対話だと考えています。

正直にいうと、この対話には時間もかかりますし、経営者さんにとって勇気がいる場面も多いと感じています。それでも、対話を重ねるなかで、社員さんが自分の貢献を言葉にし、経営者さんが会社の状況や価値観を率直に伝える。そうしたやり取りそのものが、投資を一方通行にしない土台になっていくのだと思います。

おわりに

賃上げの目的が人材への投資へと変わっていく動きは、給与を会社と社員さんの共同責任による投資と位置づけてきた私にとって、心強い変化だと感じています。

投資である以上、その判断のプロセスに社員さんご本人が関わることには、大きな意味があると考えています。

これからも、対話を通じて給与を決めていく仕組みが広がっていくことを願って、自己申告型給与制度に取り組んでいきたいと思います。

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