管理職不要論から未来の管理職のあり方を探求する
- カテゴリ:ティール組織(自律分散型組織)
時代の変化が激しいなかで、組織の柔軟性や迅速性を高めるという文脈で「管理職は不要」という考え方が現れ、一部の企業では実際に管理職を削減する動きも見られました。
しかし、それらの企業では、管理職が少なくなったことによって新たな課題が生まれ、「やはり管理職は必要だ」と再評価した企業もあります。
一方で、ティール組織のような自律分散型組織の概念が注目され、「管理職のいない組織運営」という可能性も議論されています。
こうした議論を踏まえ、これからの時代における管理職の新しい役割や存在意義について考えてみます。
管理職の存在が生み出すメリット・デメリット
まず、ティール組織に代表される自律分散型組織に関する誤解を解いておくと、「ティール組織=管理職がいない(階層がない)」というイメージが先行しているように感じますが、これは誤解です。
組織運営で自律分散の度合いが高まっていったとしても、それぞれのチームでリーダー的な存在の人は自然と生まれてきます。
この点については、この記事の後半で扱いますが、「管理職をなくせば自律分散型組織になる」という単純なものでもないのです。
現実的に、ピラミッド型の組織形態である組織が、いきなり自律分散型の組織運営に移行するのは難しい面もあると思いますので、まずは環境変化に柔軟に対応できる組織になるために「管理職の役割がどう変わるべきか」について触れていきたいと思います。
まずは最初に、管理職が存在することのメリットとデメリットについて、組織と個人の両面から整理したいと思います。
組織にとってのメリット
■生産性向上:優秀な管理職は、チームメンバーの能力を最大限に引き出し、生産性の向上に大きく貢献します。明確な目標設定、効率的なタスク管理、そしてチームメンバーへの適切なサポートは、組織全体の成果に直結します。
■組織目標達成:優秀な管理職は、組織全体の目標達成に向けて、戦略立案から実行、そして評価までを担います。そのため、管理職の力量は、組織目標達成への鍵となります。優れた計画力と実行力を持つ管理職は、組織を成功に導く原動力となります。
■人材育成:優秀な人材を育成し、組織全体の能力向上に貢献します。後進育成は、組織の持続的な成長に不可欠な要素であり、管理職はその役割を担う中心人物となります。メンターとしての役割を果たし、組織全体の成長を促します。
■問題解決能力:組織内で発生する様々な問題に対して、迅速かつ適切な対応を行うことで、組織全体の安定性と効率性を確保します。問題を未然に防ぐ予防策、そして発生した問題への対処能力は、管理職にとって重要なスキルとなります。
組織にとってのデメリット
■管理コスト:管理職の給与や福利厚生などのコストは、組織にとって大きな負担となる場合があります。特に、管理職の数が多すぎると、コスト増加が組織の収益を圧迫する可能性があります。
■意思決定の遅れ:階層構造が複雑な組織では、管理職の承認が必要な場合が多く、意思決定が遅れる可能性があります。迅速な意思決定が求められる状況では、大きなデメリットとなります。
■非効率な組織構造:適切な管理体制が整っていない場合、管理職の存在自体が非効率を生み出す可能性があります。組織構造を見直すことで、管理コストの削減や意思決定の迅速化を図ることが重要です。
■管理職の能力不足:能力不足の管理職は、組織に悪影響を及ぼす可能性があります。適切な人材育成や配置転換、必要に応じて研修を行うことで、能力不足を補う必要があります。
■受け身の人材:管理職の存在は、時として一般社員の責任感の欠如、受け身の姿勢の助長につながることがあります。
個人にとってのメリット
■キャリアの目標:管理職は一般社員よりも高い給与を得られることが多いです。責任の重さに見合う報酬が支払われているならば、キャリアアップの目標となります。
■責任ある仕事:組織全体を俯瞰し、責任ある仕事に携わることができます。やりがいを感じ、自己成長に繋がります。
■スキルアップ:人材育成や経営戦略など、幅広いスキルを身につけることができます。リーダーシップやマネジメントスキルは、将来的なキャリアにおいても役立ちます。
個人にとってのデメリット
■責任の重さ:組織全体の成果に責任を負うため、常に大きなプレッシャーを感じます。ミスは許されず、大きな責任を負うことになります。
■長時間労働:管理職は、長時間労働になりがちです。業務量が多く、残業や休日出勤も多くなる可能性があります。
■人間関係の複雑さ:部下や上司、同僚など、様々な人間関係を築き、良好な関係を維持する必要があります。人間関係のトラブルに巻き込まれる可能性もあります。
■ストレス:責任の重さ、長時間労働、人間関係の複雑さなどから、大きなストレスを抱える可能性があります。心身の健康管理に注意が必要です。
管理職不要論が登場したということは、上記のメリットが少なくなり、デメリットが大きくなってきたということだと思います。
このことを踏まえて、次章ではこれからの管理職について考えたいと思います。
管理職のあり方の変化
私の考えは、組織形態がピラミッド型であろうがフラット型であろうが、組織運営においては、各方面の意見や利害を調整するハブ役を担う人は、ある程度は必要だと考えています。
従来のピラミッド型組織では、その役割を管理職さんが担っていると思いますが、ただ単に調整役であるのならば、一般社員さんよりも高い給与になる理由にはならないと考えています。
つまり、課長や係長などの役職は、チームの活動を調整するという1つの役割であって、給与の高さや立場の上下を表すものではなくなるということです。
特に、ティール組織に代表される自律分散型組織においては、それが顕著に現れます。
自律分散型組織でも、それぞれのチームと全体を調整する役割は必要になり、ホラクラシーでいえば「リード・リンク」と呼ばれる役割になりますが、その役割はあくまでも役割の1つであって、地位を表すものではありません。
ここで管理職の役割において、大きな変化があります。
管理職の主な役割として「意思決定」「指示命令」「評価」があり、それが権限と合体することで「意思決定権」「指示命令権」「評価権」となります。
従来の組織運営で管理職が持っているこの3つの権限が、自律分散型組織においては一人ひとりの社員さんに分散されることになります。
この辺の組織運営については、従来のピラミッド型の組織運営に慣れ親しんだ人にはイメージが湧きづらいところなので、また別の記事で詳しく書きたいと思います。
ここでは、従来型の組織で管理職が独占していた3つの権限が、自律分散型組織では分散されるとご理解ください。
従来の管理職が、一般社員さんよりも高い給与であったり、上下関係を持ったりしたのは、この3つの権限を独占していたからです。
しかし、上記のデメリットであったように、管理職が3つの権限を独占することによって、意思決定が遅くなったり、組織としての非効率が起こったり、管理職さんへの過度な負担につながったりして、機能不全に陥る組織が増えてきたことで「管理職不要論」が生まれたわけです。
したがって重要なポイントは、管理職が必要か不要かということではなく、管理職が担ってきた役割を分解し、それぞれがしっかりと機能するような構造を考えることになります。
自律分散型組織とは、それらの役割が一人ひとりに分散していくという方向性の組織運営であり、従来の管理職という役割がいなくなります。
ただ、この記事の前半で述べたように、ティール組織のような自律分散型組織でも、ある分野の知識や技術、あるいは情熱が高い人が、その分野において自然とリーダー的な存在になっていきます。
それは会社が任命するとか、そういう権力によって生まれた役割ではなくて、メンバー同士の関係性のなかから自然発生的に生まれてくるものです。
こういう自然発生的なヒエラルキー(階層)はティール組織のような自律分散型組織にも存在しますし、そういうリーダーがいなければ組織が目的に向かって進むことはできません。
未来の管理職のあり方としては、自分自身がリーダーになっていくか、あるいはリーダーをコーチングやアドバイスによって支援する役割を担うか、という方向性になるかと思います。
どちらも組織運営にとっては欠かせない役割ですが、従来型のマネジメントを行ってきた管理職さんにとっては、かなりの自己変革が必要になるかと思いますが、そういう自己変革を目指すことがご自身のやりがいにもつながると思いますし、組織全体への貢献にもつながると考えています。
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