人事制度が管理職にムリをさせている
- カテゴリ:自己申告型給与制度
自己申告型給与制度という、社員さんが給与を自己申告する人事制度に対して、
1.社員さんが自分の給与を決められないのではないか?
2.とんでもない給与額の申告が出てくるのではないか?
3.人件費がとんでもなく増えるのではないか?
4.管理職さんの精神的な負担が大きくなるのではないか?
5.社員さんがお金のことばかり考えるようになるのではないか?
というご質問をいただくことが多く、前回は3番目について回答させていただきました。
※前回の記事「人件費の常識を変える」
今回は、4番目のご質問に回答していきたいと思います。
給与に関わるのはプレッシャーが大きいのは事実
ノーレイティングでは、人事評価で点数づけやランクづけをしませんので、従来型の人事制度のような、点数やランクに応じて給与が決まるという方法はとりません。
ノーレイティングを導入している会社さんの多くは、管理職さんが部下の給与額を決めるという方法を採っています。
当社のノーレイティング型人事制度/自己申告型給与制度では、一般的なノーレイティングをさらに進めて、社員さんの自己申告をもとに対話のなかで給与を決めていきます。
一般的なノーレイティングとは少しやり方が異なりますが、共通しているのは、管理職さんが給与決定に深く参画するということです。
従来型の人事制度では、管理職さんは人事評価で評価点をつけますが、給与の「額」の意思決定には直接的には関わっていませんでした。
しかし、一般的なノーレイティングでもそうですし、当社のノーレイティング型人事制度/自己申告型給与制度ではさらにそうですが、
管理職さんが給与額の意思決定をすることになります。
たしかに、給与額を決めるというのは精神的なプレッシャーが大きいと思います。
それは事実なので、当社では管理職さんが一人で抱え込まないような仕組みにしているのですが、それはまた別の機会で説明したいと思います。
従来型の人事制度でも、管理職さんがつけた人事評価の点数が給与額に反映されますので、給与決定に参画しているといえばそうなのですが、
2次評価によって変更が加わったり、部署間の調整があったりして、管理職さんの人事評価がダイレクトに反映することは稀でした。
だから、管理職さんはある意味での「逃げ」というか、
「自分は君のことを高く評価したんだが、上の方で変更したんだと思う」
というような言い訳によって部下のご機嫌をとることができました。(あえて意地悪な言い方をしてます)
しかし、一般的なノーレイティングでも、当社のノーレイティング型人事制度/自己申告型給与制度でも、管理職さんが部下の給与を決めることになりますので、それは相当なプレッシャーだと思います。
しかし、従来型の人事制度よりも、プレッシャーの「質」が変わっただけで、プレッシャーの「総量」はそんなに変わっていないと思っています。
完璧な人事評価を求められるプレッシャー
従来型の人事制度では、管理職さんは「完璧」な人事評価を求められます。
なぜなら、管理職さんの人事評価が不適切なら、その人事評価に基づいて決められる処遇(給与/賞与/登用など)も不適切になるからです。
そして、ここで大きな問題が立ちふさがります。
「他者を完璧に評価することなど不可能」という問題です。
「完璧」という言葉には、いろいろな視点が含まれていますが、「客観性」と「納得性」を例にとりたいと思います。
人事評価の「客観性」を高めるために、社員さんの貢献を「数値化」することが方法としてとられますが、
ある社員さんの会社への貢献を、すべて数値化することなど不可能です。
数値化できる人事評価項目を大量に設けたとしても、何かモレている貢献があります。
次に、人事評価の「納得性」ですが、すべての人が納得するような人事評価も不可能です。
人によって優先順位や価値観が違いますから、ある人にとっては納得性の高い人事評価の結果でも、別の人にとっては的外れに見えます。
また、人事評価を受ける社員さんご本人も、自分のことを完全に客観視することも難しいので、ご本人が納得できない人事評価の結果でも、必ず不適切な人事評価とも限りません。
このように、人が人を「完璧」に評価することなど不可能ですが、従来型の人事制度では、管理職さんはそれを求められています。
これらのことから、従来型の人事制度でも管理職さんには大きなプレッシャーが課せられていると思います。
正解がないという前提で対話する
従来型の人事制度であれ、一般的なノーレイティングであれ、管理職さんは大きなプレッシャーを抱えています。
そのプレッシャーの根っこにあるのは、「正解がある」という前提です。
ここでいう「正解」とは、誰もが納得する人事評価や昇給額・賞与額が存在するということです。
この前提を変えなければ、人事制度や人事評価に対しての不満の声が挙がれば、「管理職の評価スキルが足りないからだ」という結論になってしまいます。
管理職さんの人事評価スキルが高いに越したことはありませんが、それよりも大切なことは、
正解はないという前提にたって、本音を率直に伝えあいながら「対話」することです。
ここで、社員さんの方にも大きな意識変革が必要になります。
人事制度/給与制度のコンサルティングをしていて感じることですが、多くの人が「自分が満足する人事評価や給与額を提示するのが会社や上司の責任」だと思っています。
別の言い方をすると、「自分のモチベーションが上がらないのは会社や上司が悪い」と思っているということです。
この考え方は、変えた方がよいと私は考えています。
会社と社員さんが本当のパートナーになるには、モチベーションが上がらないことをどちらか一方の責任にするのではなく、その原因を一緒に探求していくことが必要です。
もし、一方もしくは双方が、パートナーとして一緒に探求する気持ちにどうしてもなれないのであれば、関係を解消した方がお互いのためだと思います。
お互いにしんどい思いをするだけです。
ただ、私のこれまでの経験では、お互いの本音を素直に対話して、お互いの考えや価値観を共有すれば、ほとんどの軋轢は解決すると感じています。
大切なのは、お互いをパートナーと思って対話することだと思います。
それは勇気が必要な場合もありますが、勇気をもって対話することが、本当のパートナーになっていくプロセスなのだと思います。
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