御社が提唱する「自己申告型給与制度」だと、社員がワガママなことを言い出して、組織として統制がとれなくなる危険性があると思いますが、この点についてどう考えますか?
- カテゴリ:よくあるご質問
当社の取り組みである「自己申告型給与制度」の説明をしたときに、多くの経営者さんが感じるリスクがこのご質問です。
実は、私も自己申告型給与制度の取り組みをスタートする前は、このリスクについては考えていました。
ただ、私が思い描いていた組織運営のあり方(今でいうとティール組織や自律分散型組織のような組織運営)で人事制度を眺めたときに、「やっぱり会社が一方的に給与を決める人事制度は合ってないよね」と思い、思い切って自己申告型給与制度をスタートしました。
10年以上取り組み続けてきて実感しているのは、自分の給与額について自分で申告できる環境に置かれたとき、ほとんどの人は誠実にこの課題に取り組んでくださるということです。
逆に言うと、ワガママ勝手なことを言う人は、ほとんどいないということです。
この私の経験を前提に、特にお伝えしたいことが2点あります。
1点目は、どんな申告にも理由があるということです。
ほとんどの人が誠実に取り組んでくださるということを前述しましたが、一方で、一見すると驚くような申告が出てくることも事実です。
これは、どんな会社でも一定数あります。
驚くような申告とは、たとえば、やることはほとんど変わりないけれど、給与額を倍以上にしている申告などです。
こういう申告があったときに、「あいつは問題社員だ!」とその社員さんを責める対応もできますし、「なにか考えや事情があるのかな?」とその社員さんを深く理解しようとする対応もできます。
私は、後者の対応が大切だと思っています。
今までの経験でいうと、驚くような申告の背景には、「自分は評価されていない」とか「自分の意見を聴いてもらっていない」というような、その社員さんが蓄積してきた怒りや悲しみの感情があります。
それは、自己申告型給与制度によって生まれたものではなくて、長年にわたって積み重なってきた感情であり、たまたまそれを表明する場(自己申告型給与制度)ができたことで顕在化した感情です。
社員さんが抱く感情を理解し、会社と社員さんが対話をしながら、お互いにとってプラスになる関係性を探求していくことが大切だと私は思っています。
お互いを尊重した深い対話の結果、価値観の違いが大きくて、一緒にやっていくことがお互いのためにならないのなら、関係を解消した方がお互いのためでもあります。
つまり、驚くような申告が出てきたときこそ、深い対話をするチャンスでもあるのです。
そのチャンスをものにできるのは、「どんな申告にも理由がある」という価値観があるからで、その価値観がなければただ単にその社員さんを否定するだけで終わるでしょう。
2点目の伝えたいことは、そもそも「社員を統制する」という組織観を変えた方がよいということです。
社員さんを統制するという価値観で組織を運営すれば、社員さんから主体性や自主性、創造力を奪うことになります。
逆にいえば、社員さんを統制するような運営をしておいて、社員さんに高いエンゲージメントやモチベーションを期待するのは無理だということです。
多くの会社で、エンゲージメントやモチベーションを高めようという施策が失敗するのは、根本にある組織運営の価値観に原因があるということです。
誤解のないように念のため伝えると、社員さんを統制する組織運営が「間違っている」と言いたいわけではありません。
経営者さんがそういう組織運営をしたいのではあれば、そうすればいいと思います。
ただし、社員さんに主体性や創造的な仕事をしてもらうことは、諦めた方がいいと思います。
しかし、社員さんに対して「主体的に仕事をしてほしい」「会社のことを大切に思ってほしい」と願うのであれば、根本の組織観から見直し、社員さんを統制しようとする構造を一つひとつ丁寧に変えていく必要があります。
人事制度におけるその第一歩が、給与を会社が決めるという構造を手放し、社員さんとの対話によって決めていくという自己申告型給与制度だと考えています。